塩野七生『ローマ人の物語 高き皇帝たち』全巻読了

カエサルアウグストゥス以降の皇帝たちの物語。各人それぞれの人生がとても興味深い。

以前も書きましたが、やはり一番興味を持ったのは2代皇帝ティベリウスですね。何というか一番自分と似ているというか、共感できるというか。

このティベリウス元老院に対する考え方が、「第一人者」と元老院は協力して国家ローマの運営を担当する、であったのも当然だろう。そしてティベリウスは、この考え方を現実化するに際し、誠心誠意で当たった。私の思うには、精神性で当たりすぎた、のである。

しかし、両雄並び立つとは、理想であっても現実ではない。前任者二人のように元老院の統治者能力に幻想を抱かなければ、現実を知っても幻滅することはないが、ティベリウスの場合は希望を持ちすぎていたのである。

元老院議員に要請する場合でも反論する場合でも、ティベリウスの口調は常に厳格で、発言の内容には賛成でも発言の調子の厳しさは、それを聴く議員たちに冷水を浴びたような想いをさせずにはおかなかったのだ。ティベリウスに欠けていたのは、ユーモアの才能であった。反対派でさえ笑わせながら自分の考えどおりにことを運んでしまうカエサルのような才能は、ティベリウスにはなかったのである。そして、そのティベリウスの発言の調子が最も辛辣に変わるのは、議員たちが言を左右にし、国策決定機関であるはずの元老院の存在理由を忘れ、何もかも彼に一任しようとする意図が見えたときであった。そのようなときのティベリウスは、まるで言葉の剣で彼らに斬りつけでもするかのように、元老院の権威と責務の自覚を澪止めて容赦しなかった。カエサルアウグストゥスならば、コレ幸いと見過ごしていたであろうに。

ティベリウスの欠点は、上等下等の区別なく、偽善的な行為そのものができない性格にあった


ローマ人の物語 (17) 悪名高き皇帝たち(1) (新潮文庫)

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ローマ人の物語 (18) 悪名高き皇帝たち(2) (新潮文庫)

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ローマ人の物語 (19) 悪名高き皇帝たち(3) (新潮文庫)

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ローマ人の物語 (20) 悪名高き皇帝たち(4) (新潮文庫)

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さて、「アウグストゥスの血統」が絶えたあとの皇帝はどのように権威を得ていくのでしょうか。そのあたりが一番興味があります。